【行政書士が解説】遺言書は「いつ」作るのが正解?─“まだ早い”と“もう遅い”の間で迷うあなたへ

「遺言書って、やっぱり年配の人が書くものですよね?」「まだ元気なのに、今から遺言なんて縁起でもない気がして…」
相続や遺言のご相談をお受けしていると、こうしたお声を本当によくお聞きします。
多くの方が、遺言は人生の終盤に作るものというイメージを持っていらっしゃるようです。
でも実際の相続現場では、こんな言葉を耳にすることが少なくありません。
「もう少し早く作っておけばよかった」「まさか、あんなに急に…」
遺言書は、早すぎても意味がないように思えますし、遅すぎると作れません。
では一体、「遺言書はいつ作るのが正解」なのでしょうか。
今回は、行政書士として多くの相続・遺言に関わってきた立場から、「遺言を書く本当のタイミング」を、年齢・ライフイベント・家族構成別に、現実的にわかりやすく解説します。
よろしければ、前回の記事も併せてご覧ください。

そもそも、遺言書は「何歳から」作れるの?
まず基本的なルールとして、遺言書は15歳以上であれば作成可能です。
つまり、法律上は10代からでも遺言は書けます。
とはいえ、実際に遺言を考え始める方が多いのは、
40代後半〜50代
60代〜70代
このあたりがもっとも多い年齢層です。
ただし、「平均的な年齢」に正解があるわけではありません。
遺言を書くべきタイミングは、“年齢”よりも“状況”で決まるのです。
「遺言はまだ早い」と思っている方に知ってほしい現実
遺言のご相談で、もっとも多い言葉のひとつが、

まだ元気ですから・・・
という一言です。
もちろん、元気でいることは素晴らしいことです。
しかし現実には、
- ある日突然の病気
- 思いがけない事故
- 急な認知症の発症
こうしたことは、誰の身にも、予告なく起こります。
そして一度、判断能力が低下してしまうと、遺言はもう作れません。
これは非常に重要なポイントです。
「体は元気だけど、認知症が始まってしまい、遺言を作れなかった」
これは、実務の現場でも本当に珍しくないのです。
遺言書を作る「5つのベストタイミング」
ここからは、実務上「このタイミングは、遺言を考えるべきです」とお伝えしている代表的な場面をご紹介します。
① 子どもが独立したとき
子育てが一段落し、ふと冷静に
自分の老後
自宅のこと
財産のこと
を考え始める時期です。
このタイミングは、
- 親としての役割が「子育て」から「見守り」に変わる
- 財産の全体像を把握しやすくなる
という意味で、遺言を考える最初の入口としてとても良い時期です。
② 配偶者を亡くしたとき
配偶者が亡くなると、強く意識するのが「次は自分かもしれない」という現実です。
このとき、
子ども同士がうまくやってくれるだろうか
実家や土地はどうなるだろうか
専業主婦(主夫)だった自分の財産関係は大丈夫だろうか
こうした不安が一気に現実味を帯びてきます。
このタイミングで遺言を作成された方は、
「気持ちがとても楽になりました」とおっしゃることが非常に多いです。
③ 再婚したとき・再婚家庭になったとき
再婚家庭の場合、遺言の必要性は一気に高くなります。
前の配偶者との間の子、現在の配偶者
その両方にどう財産を残すのか
これは、遺言がなければほぼ確実に争いになります。
再婚したタイミングは、遺言を「できるだけ早く整えるべき時期」と言えます。
④ 不動産を購入・相続したとき
次のようなタイミングも要注意です。
- マイホームを購入した
- 親から土地や家を相続した
- アパート・駐車場などの収益不動産を持った
不動産は、
- 分けにくい
- 金額が大きい
- 相続トラブルの原因になりやすい
という性質があります。
このタイミングで遺言を作っておくと、「誰に」「どう引き継ぐか」をはっきりさせておくことができます。
⑤ 自分や家族の「病気」がきっかけになったとき
- がんと診断された
- 大きな手術を控えている
- 家族が倒れ、急に介護が始まった
こうした出来事は、誰にとっても強い衝撃になります。
このときに遺言を作る方は非常に多く、
「万が一のときに家族が困らないように」という想いが、とても強く表れます。
“病気になってから”ではなく、“病気になったことをきっかけに”作る。
これは、実務上とても現実的なタイミングです。
「いつ作っても遅くない」は本当?
よく聞かれる質問に、
「遺言は、いつ作っても大丈夫なんですよね?」というものがあります。
答えは、半分正解で、半分不正解です。
遺言は、原則として何度でも書き直せます。
状況が変われば、新しい遺言に更新すれば良いのです。
しかし、
- 判断能力が低下したとき
- 認知症と診断されたあと
- 意識障害が続いているとき
この状態になると、新しく遺言を作ることも、書き直すこともできなくなります。
つまり、
元気なうちは「いつ作っても遅くない」
でも、「作れなくなる日は、ある日突然やってくる」
というのが、現実なのです。
「早すぎる遺言」には意味がない?
一方で、
「40代で遺言なんて、さすがに早すぎませんか?」と不安に思われる方もいらっしゃいます。
ですが実務上は、40代・50代で遺言を作っている方は、決して珍しくありません。
なぜなら、
- 再婚している
- 子どもがいない
- すでに不動産を持っている
- 兄弟姉妹との関係に不安がある
こうした事情があれば、年齢に関係なく遺言は“必要なもの”になるからです。
遺言は「年齢」で書くものではなく、「リスクが見えたとき」に書くものなのです。
遺言は「作ったら終わり」ではありません
遺言は
一度作ったら一生そのまま
ではありません。
人生の中で、
- 結婚
- 離婚
- 再婚
- 出産
- 相続
- 不動産の売却や購入
こうした節目が訪れるたびに、遺言は見直すものです。
「とりあえず今の状況で一度作る」
これは、実務ではとても正しい考え方です。
結局、遺言を書いている人はどんな人?
これまでたくさんの方の遺言作成に関わってきた中で感じるのは、
実際に遺言を書いているのは、次のような方です。
- 家族のことをよく考えている人
- 「迷惑をかけたくない」という気持ちが強い人
- もめごとをとても嫌う人
- 自分の人生の締めくくりを、きちんと整えたい人
遺言は、不安だから作るものではなく、家族を想うから作るものなのだと感じています。
まとめ:遺言書は「思い立ったとき」が、本当の正解
ここまでの内容をまとめると、遺言書を作るタイミングに、たった一つの正解はありません。
ただし、これだけははっきり言えます。
- 「何も起きていない今」こそが、いちばん冷静に考えられる
- 判断能力があるうちにしか、遺言は作れない
- 早く作って困ることはほとんどない
- 作れなくなってからでは、もう手遅れ
つまり、まとめると―
遺言書は「必要になってから」ではなく、「必要になる前」に作るもの。
これが、相続の現場から見た、本当の答えです。
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