【行政書士が解説】公正証書遺言でできること・できないこと」─できると思っていたのに“できなかった”を防ぐために

遺言書作成

「公正証書遺言なら、何でも自由に書けるんですよね?」

遺言書のご相談の中で、実はとても多い誤解がこの言葉です。

公正証書遺言は、たしかにもっとも安全で、トラブルになりにくい遺言の形です。

しかし、「何でも書ける」「どんな希望もそのまま通る」わけではありません。

むしろ、できることと、できないことの境界線を知らずに作ってしまうと、あとで思っていた遺言と違ったという結果になることさえあります。

この記事では、行政書士の実務目線から、

公正証書遺言で「できること」

公正証書遺言でも「できないこと・注意が必要なこと」

を、具体例をまじえながら、できるだけわかりやすく解説していきます。

よろしければ、前回の記事も併せてご覧ください。


目次

そもそも公正証書遺言とは?

簡単に整理しておきましょう。

公正証書遺言とは

  • 公証役場で
  • 公証人が関与し
  • 本人の意思をもとに
  • 法律上有効な形式で作成される遺言

です。

原本は公証役場で保管され、検認も不要。

形式の不備で無効になるリスクが極めて低いことが最大の特徴です。

つまり、公正証書遺言は、

「無効にならないための仕組み」がきちんと整っている遺言

と言えます。

ただし、内容のすべてが自由というわけではありません。


公正証書遺言で「できること」

ここからは、実際に公正証書遺言で可能な内容を、テーマごとにご紹介します。


① 財産の分け方を自由に決められる

公正証書遺言で、もっとも代表的にできることが、

  • 誰に
  • 何を
  • どれだけ

相続させるかを、自分の意思で具体的に決められることです。

たとえば――

  • 長男には自宅の不動産を
  • 次男には預貯金を
  • 長女には有価証券を

といったように、細かく指定することが可能です。

法定相続分どおりに分ける必要はありません。

「公平」ではなく「納得できる分け方」ができるのが、遺言の最大の意味でもあります。


② 相続人以外の人に財産を遺せる(遺贈)

公正証書遺言を使えば、

  • 内縁の配偶者
  • 長年お世話になった友人
  • 介護してくれた人
  • お世話になった施設や団体

など、法定相続人ではない人にも財産を遺すこと(遺贈)ができます。

遺言がなければ、こうした方に財産が渡ることは原則ありません。

「感謝の気持ちを形として残したい」という方にとって、公正証書遺言はとても大きな意味を持ちます。


③ 相続人の廃除・取り消し(条件あり)

一定の要件を満たす場合に限り、

  • 著しい迷惑行為を繰り返した
  • 虐待や重大な侮辱をした

といった事情がある相続人について、相続権を失わせる「廃除」の意思を、公正証書遺言に記すことも可能です。

ただし、これは家庭裁判所の判断が必要になるため、

「書けば必ず排除できる」というものではない点には注意が必要です。


④ 子どもの認知ができる

あまり知られていませんが、遺言によって、非嫡出子(婚姻関係にない相手との子)を認知することも可能です。

生前に認知できなかった事情がある場合でも、

公正証書遺言で認知の意思表示をする

死後に法的に親子関係が成立する

ということが認められています。


⑤ 未成年の子の「後見人」を指定できる

もし自分が亡くなったときに、

  • 子どもがまだ未成年で
  • もう一方の親もいない

という場合、遺言によって未成年後見人を指定することができます。

これにより、

  • 誰が子どもを育てるのか
  • 財産管理は誰がするのか

といった問題を、事前に防ぐことができます。


⑥ 事業の承継者を指定できる

個人事業主や会社経営者の方の場合、

  • 事業用の不動産
  • 設備
  • 株式

などを、特定の後継者に承継させる内容を公正証書遺言に盛り込むことができます。

後継者を明確にしておかないと、

  • 相続人同士の経営権争い
  • 株の分散
  • 事業の停止

といった深刻な問題につながりやすいため、事業をされている方ほど、公正証書遺言の重要性は高くなります。


⑦ 遺言執行者を指定できる

「遺言の内容を、きちんと実行してくれる人」を遺言執行者として指定できるのも、公正証書遺言の大きなメリットです。

  • 相続人の中から指定
  • 第三者(専門家など)を指定

どちらも可能です。

相続手続きは、想像以上に時間も労力もかかります。

遺言執行者を定めておくことで、相続人の精神的負担を大きく減らすことができます。


公正証書遺言でも「できないこと・制限があること」

ここからがとても重要なポイントです。

公正証書遺言であっても、法律上できないこと、制限されることが存在します。


① 遺留分を完全には無視できない

「すべての財産を長男に相続させる」

こうした内容も、遺言として書くこと自体は可能です。

しかし、法律には「遺留分(いりゅうぶん)」という制度があります。

  • 配偶者
  • 子ども

には、最低限保障される取り分があります。

これを完全に無視した内容にすると、遺言は有効でも、あとから遺留分侵害額請求を起こされる可能性があるのです。

「遺言が無効になる」のではなく、「遺言どおりに実現しない」

という結果になることもあります。


② 法律に反する内容は書けない

たとえば

「遺産を相続させる代わりに、一生結婚するな」

「親と縁を切ることを条件に相続させる」

こうした、公序良俗に反する条件は、たとえ公正証書遺言に書いても無効になる可能性が高いです。

公正証書遺言は「無効になりにくい」と言われますが、何を書いても有効になる魔法の書類ではありません。


③ 相続人の「感情」まではコントロールできない

これは制度上できない、というより、人の問題です。

どれだけ完璧な公正証書遺言を作っても、

不満・嫉妬・過去の感情

まですべて消えるわけではありません。

結果として、

遺留分請求

感情的な対立

付き合いの断絶

につながることも、残念ながら現実としてあります。


④ 気持ちや想いだけでは法的効力が弱い

「家族仲良く助け合うこと」「○○を大切にしてほしい」

こうした気持ちやメッセージを書くことは可能ですが、それ自体に法的な強制力はほとんどありません。

財産の分け方のように、

具体的な権利義務に関わる内容だけが、法的効力を持つという点は、意外と誤解されがちです。


「できる」と思っていたのに、できなかった…よくある誤解

実務の中で、実際によくある誤解をいくつかご紹介します。

「遺言を書けば、兄弟に一切文句を言わせずにすむ」

→ 遺留分の問題が残ります。


「公正証書なら、どんな条件付きでも有効」

→ 公序良俗に反する条件は無効の可能性があります。


「あとから家族が仲良くやってくれるはず」

→ 感情問題は、遺言だけで完全に解決するものではありません。

こうした“思い込み”を修正しながら作っていくのが、専門家と一緒に公正証書遺言を作る最大のメリットでもあります。


まとめ:公正証書遺言は「できること」を正しく使ってこそ意味がある

公正証書遺言は、たしかに非常に優れた制度です。

できること

  • 財産の分配指定
  • 遺贈
  • 認知
  • 後見人指定
  • 事業承継
  • 遺言執行者指定

できない・制限があること

  • 遺留分の完全排除
  • 法律違反の内容
  • 感情トラブルの完全防止

重要なのは、

「何ができて、何ができないのか」を正しく理解した上で、自分の状況に合った内容を現実的に組み立てることです。

遺言は、「書いたかどうか」よりも、「正しく使えているかどうか」が結果を大きく左右します。


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