【行政書士が解説】遺言書が「ある相続」と「ない相続」の手続きの差

「遺言書があるのと、ないのとでは、そんなに手続きって変わるんですか?」

相続のご相談をお受けしていると、必ずといっていいほど出てくる質問です。

結論からお伝えすると、手続きの大変さ・スピード・トラブルの起きやすさは、驚くほど違います。

同じご家族構成、同じ財産内容でも、

遺言書がある場合

遺言書がない場合

では、相続人が背負う精神的・時間的・経済的負担がまったく変わってきます。

この記事では、行政書士として数多くの相続実務に関わってきた立場から、

  • 遺言書が「ある相続」の流れ
  • 遺言書が「ない相続」の流れ
  • 具体的にどんな手続きの差が生まれるのか

を、できるだけリアルに、わかりやすく解説します。

よろしければ、前回の記事も併せてご覧ください。


目次

まず結論:相続手続きは「遺言書があるか」で難易度が変わる

最初に、全体像を一言でまとめると、こうなります。

遺言書がある相続

原則「遺言どおりに進める」だけ

→ 話し合いが不要、もめにくい、早く終わる


遺言書がない相続

必ず「相続人全員の話し合い」が必要

→ もめやすい、動かない、終わらない

この違いが、実務では想像以上に大きな差となって現れます。


遺言書が「ある相続」の手続きの流れ

まずは、遺言書がきちんと用意されている場合の相続手続きを見てみましょう。

※ここでは、特に実務で多い

「公正証書遺言があるケース」

「法務局保管の自筆証書遺言があるケース」

を想定してお話しします。


① 相続人は「遺言書の内容を確認」するだけ

遺言書がある場合、相続人が最初に行うことはとてもシンプルです。

  • 遺言書の内容を確認
  • 「誰が・何を・どれだけ相続するのか」を把握

この時点で、分け方がすでに決まっているのが最大の特徴です。

相続人同士で、

どう分けるか

どちらが多い少ない

と話し合う必要が、原則としてありません。


② 検認が「不要」または「簡単」

  • 公正証書遺言
  • 法務局保管の自筆証書遺言

この2つの場合、家庭裁判所の「検認」は不要です。

つまり、

  • 裁判所に申し立てる必要なし
  • 数か月待たされることもない

という、大きな時短メリットがあります。

※自宅で保管していた自筆証書遺言の場合のみ、検認が必要です。


③ 遺言執行者がいれば、相続人はほぼ何もしなくていい

遺言書の中で、遺言執行者が指定されているケースでは、

  • 預貯金の解約
  • 不動産の名義変更
  • 各種相続手続き

を、遺言執行者が中心となって進めることができます。

相続人は、

  • 必要書類に署名・押印する程度
  • 金融機関で長時間待つこともない

というケースも少なくありません。


④ 手続き完了までの期間は「数か月」で終わることも

遺言書がしっかり整っている相続では、

早ければ2〜3か月

相続財産が多くても半年程度

で、ほとんどの手続きが完了します。

精神的にも、

「もめない」

「何をすればいいかが明確」

という状態で進んでいきます。


遺言書が「ない相続」の手続きの流れ

一方で、遺言書がない場合、相続はここから一気に複雑になります。


① まず「法定相続人」を全員確定させる

遺言がない相続では、まず

  • 誰が相続人なのか
  • どこまで戸籍をたどるのか

を、戸籍を集めて調査する必要があります。

  • 何十年分もの戸籍
  • 転籍・改製原戸籍
  • 遠方の市区町村への請求

この時点で、すでに相続人の負担はかなり大きくなります。


② 次に「遺産分割協議」が必須になる

遺言書がない相続では、

相続人全員で「遺産分割協議」をしなければ、1円も動かせません。

誰が

どの財産を、どの割合で相続するのかを、全員の合意で決める必要があります。

しかも、

相続人が1人でも欠けると無効

印鑑1つ欠けても成立しない

という、非常に厳格な手続きです。


③ 一人でも反対すると「何も進まない」

遺産分割協議の最大の問題点は、ここです。

  • 1人でも反対
  • 1人でも連絡が取れない
  • 1人でも署名しない

この状態になると、不動産も、預金も、完全にストップします。

実務では、

  • 何年も相続登記ができない
  • 空き家のまま放置
  • 固定資産税だけ払い続ける

というケースも、決して珍しくありません。


④ 家庭裁判所に進むケースも多い

話し合いがまとまらない場合、

遺産分割調停

審判

と、家庭裁判所の手続きを利用することになります。

ここまで進むと、

  • 解決まで1年以上
  • 弁護士費用が発生
  • 家族関係が修復不能になる

というケースも、現実として数多く存在します。


【比較】遺言書が「ある相続」と「ない相続」の手続きの違

実務的な違いを、わかりやすく比較すると次のとおりです。

項目遺言書がある相続遺言書がない相続
分け方遺言書どおり全員で話し合い
話し合い原則不要必須
反対者が出た場合原則無視できる何も進まない
検認不要な場合が多い不要
手続き期間数か月一年かかることも
トラブル起きにくい起きやすい

実務で本当に多いのは「遺言がなかったばかりに…」という相続

行政書士として相続の現場に立っていると、正直なところ、

「遺言が1枚あれば、ここまでこじれなかったのに…」と感じる場面に、何度も立ち会います。

  • 仲の良かった兄弟が絶縁状態になる
  • 介護してきた人が報われない
  • 何年も不動産が売れない
  • 相続だけで数百万円単位の費用が消える

これらの多くは、「遺言がなかった」という一点から、連鎖的に起こっています。


それでも「遺言がないまま亡くなる人」の方が圧倒的に多い

とても不思議なのですが、実務の感覚では、

遺言書がある相続:2〜3割

遺言書がない相続:7〜8割

という印象です。

理由は、

「まだ早いと思っていた」「そのうち書こうと思っていた」「うちは仲がいいから大丈夫だと思っていた」

という、よくある思い込みがほとんどです。

しかし、相続は

「もめる家族」ではなく「もめるとは思っていなかった家族」

ほど、深刻になりやすいのが現実です。


まとめ:相続手続きの明暗を分けるのは「遺言があるかどうか」

相続手続きは、

遺言書があるだけで

 → 手続きが早く

 → トラブルが起きにくく

 → 家族の負担が圧倒的に軽くなります。


遺言書がないと

 → 話し合いが必要になり

 → 1人の反対で止まり

 → 家族関係まで壊れることもあります。

遺言書は、「お金の話」ではなく、「残される家族への思いやり」そのものだと、私は日々感じています。


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